神鳥の卵 第7話


おかしな光景だと思った。
寧ろそれしか感想は出なかった。
成人を迎えたいい大人が、床に額を擦り付けて土下座をしているのだ。
すでに仮面は外しているが、ゼロのマントと衣装を身につけたままな上にあの特徴的なくるくる頭だ。
誰かなんて顔を見なくても解る。
その男が土下座をしているだけでもある意味驚きなのだが、もっと驚くべきは、そのゼロスザクの頭を、たしたしと小さな足で踏みつけている存在の方だった。
身体のサイズの問題もあり、咲世子が腕に抱えた状態で、足を振り下ろして、たしたしとふわふわな茶色の髪に足を埋めている。どう考えてもスザクにダメージなど無く、寧ろ顔を見なくても解るほど幸せオーラを放っている。
こいつ、Mだったのか。
そう一瞬思ったが、まあ、踏んでる人物が人物なので少し気持ちがわかってしまったのは秘密だ。あれが他の人間なら、即座に投げ飛ばされ、トラウマを植え付けられるほどの恐怖を味わうに違いない。
こいつは人が良さそうに見えるが、その内面はSだからな。
踏まれて嬉しい、ではなく、かまってもらえて嬉しいとか・・・ああ、全然威力ないのに頑張って踏んでるよ!という方向で喜んでいるのだろう。
間違いない。
だが、そんな幸せオーラに気づかないのか、踏みつけている方は「フハハハハハ、いい格好だなスザク!」とでも言っているようないい笑顔だった。
積年の恨みを晴らせたから尚更機嫌が良さそうにも見える。
機嫌のいいルルーシュ(仮)には悪いが、土下座をするこの男、スザクが喜んでいる姿は非常にむかつくので、私はさっさとこの茶番を終わらせることにした。
・・・その前に土下座して地面に額をこすりつけながらどこか嬉しそうなスザクと、その正面で膝を付いている咲世子の足元だけが写るように写真を一枚残しておく。
よし、どこからどう見ても女性に土下座する変態だ。

「・・・何写してるんだよC.C.」

写されたことに気がついたスザクが、ちらりと横目で見、不愉快そうな声を出した。

「いい格好だぞ枢木スザク。咲世子、よこせ」
「はい、C.C.様」

咲世子は腕に抱いていたルルーシュ(仮)をC.C.に渡した。
C.C.は慣れた手つきで抱きかかえると、じっとその瞳を見つめたあと、フッとその顔に笑みを浮かべた。

「久しぶりだな、ルルーシュ」

そう言うと、空いている方の手でルルーシュの頭を優しくなでた。
偉そうに見える表情で、まるで「仕方ないな、赤ん坊の俺はよほど可愛いらしい、好きなだけ撫でるがいい!」と言っているようにみえる。
土下座を止め立ち上がったスザクが、そんな二人の様子を不愉快げに睨みつけた。
ルルーシュは気持ちよさそうに目をつぶり、撫でられるがままになっている。
その姿はまるで猫だ。

「・・・で?C.C.、やっぱりルルーシュなんだよね?」

ルルーシュだと思っていても、卵から生まれた上に背中に羽が生えているのだ。
スザクの願いがルルーシュの姿を取っている可能性は否定できなかった。

「ああ、ルルーシュだ。昨夜までCの世界に居た筈のお前が、突然現世に戻ってきていたから何があったかと思えば、こういうことになったか」
「え?C.C.はルルーシュが何処にいるか解るの?」
「ああ、わかるぞ?ちなみに死んだ後もよくルルーシュと話はしていたが?」

C.C.は自慢気にスザクに言った。
死者との会話。
それは嘗てシャルルとマリアンヌが示していた死者と対話ができる、という嘘のない世界の話を思い出させた。

「ギアス能力者は黄昏の間でのみ死者との会話が可能だが、コードを持つ私は何処にいてもCの世界にアクセスできるからな。いつでも死者と会話が可能だ」

何だお前、知らなかったのか?
そう言いたげに目を細めた。

「そんな話、聞いてない」

ならばこの2年、C.C.はルルーシュと好きな時に話ができていたのだ。
スザクはすっと目を細め、C.C.を睨みつけた。
嘗てシャルルとマリアンヌに言われた死者との会話。
あの時はなんて愚かなと思ったのだが、実際にそれが可能だという人物を目のあたりにすると、狡い、羨ましいと思ってしまうのは仕方がないこと・・・だと思う。

「男の嫉妬は見苦しいぞ枢木スザク。それよりも咲世子、ミルクはないのか?どうやらルルーシュは空腹らしい」
「はい、すぐに用意いします」

咲世子は一礼し、その場を離れた。
すっと視線をスザクに戻したC.C.は呆れたような冷たい目で睨みつけた。

「あまり殺気を振りまくな。ルルーシュが怯えている」

見ると、心外だという表情のルルーシュは、「俺は怯えてなど居ない!」と言っているように思えるのだが、若干身体が縮こまっていた。
無意識にC.C.へ放っていた殺気を、ルルーシュも浴びてしまったのだ。

「あ、ごめんルルーシュ!」

慌てて謝ると「大丈夫だと言っている!」という目で睨まれた。
完全な強がりだ。
C.C.の腕が居心地がいいのか、それともまだ怒っているのか。
ルルーシュはスザクの腕に戻ってくる気配はなく、それが無性に悔しかった。

「・・・教えてくれないかC.C.、ルルーシュに何があったのか」
「私も正確な答えは持っていないが、こんな状況だからな、私の知る情報は教えよう」

C.C.はいつになく素直にそういった。

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